新島潜水調査1
 新島では平成12年7月15日に発生した震度6の地震依頼、海岸部で多くの崩落が起きていることが確認されている。今回は崩落による磯根漁場への被害の実態を把握するため、新島北部若郷地区を中心に4地点を選んで潜水調査した。
方 法
調査日時:平成12年9月6日
調査地点:崩落の大きかったミコシタ、モドヒガシ、コワット、アジア磯(図1)。
調査方法:若郷漁協研究会と協同して、スクーバ潜水により目視観察すると共に、ビデオ・写真撮影を行った。アジア磯のサザエ人工種苗放流地点では放流貝の有無と成熟状態の確認のためサザエを採集した。
結 果
1.ミコシタ:水深8m付近は砂地に大岩が点在しており、岸に近づくに従って岩が多くなる。水深3m以浅は大きさ1m前後の落石で埋まっている。海底には落石以外の土砂の堆積は少ない。落石によりテングサは埋没したと思われる。岩礁の表面にはサザエが、間隙にはイセエビが視認された。落石の多い場所では角の尖った石によるエビ網の破損が予想される。
2.モドヒガシ:新島地区で最も規模の大きい崩落が起こった地点である。以前は岩場であったが、崩落によって海岸に砂浜が形成されている。岸近くは濁りが広がっており、濁りが切れた場所から潜降したが(水深8m)、海底近くは視界が極めて悪く(1m程度)漁場全体の様子は見通すことができなかった。潜降地点付近の海底は以前は大岩の間に転石がありトコブシ漁場であったが、調査時には岩礁の間に砂礫が堆積し、転石は頂部をのぞかせるのみであった。また岩の表面にも大量の砂が積もっていた。サザエの生息は確認できたが、浅所のテングサと転石下のトコブシおよびサザエの稚貝などは潰滅的な影響を受けたと考えられ、その被害は水深8m以深に及んでいる。今後、陸上に堆積している土砂がさらに流入する恐れがある。
3.コワット:水深10〜15m。岸近くの岩だなや岩礁の基部には崩落起源の落石(数十cm)や砂礫が認められ、やや沖合でもこれまで岩場であった所に砂礫の堆積が広がっていた。イセエビとサザエを確認し、サザエは今回の調査地点の中では最も多く見られた。しかし、稚貝の生息場所とみられる岸近くの岩礁の基部は砂礫に埋没しており、来年以降の資源状態が懸念される。
4.アジア磯(水ヶ下付近):水深5〜10m。岩礁の間隙には崩落起源とみられる砂礫が広く堆積している。サザエ・イセエビを視認した。採集した51個のサザエのうち2個体が放流貝であった。岩礁上部に生息するサザエの成貝は被害を免れた模様であるが、転石や岩礁基部を生息場所とするトコブシはその埋没により甚大な被害を受けたものと考えられる。またサザエ稚貝にも被害は及んでいると思われる。今後、陸上に堆積している土砂がさらに流入する恐れがある。
まとめ
 今回調査した4地点の海底の様相から、その被害の特性は、落石が主体の場所(ミコシタ)と落石と土砂の堆積が併発した場所(コワット)、および土砂の堆積が主体の場所(モドヒガシ、アジア磯)の3タイプに分けられる。
 落石が主体の場所では、被害は直接埋没したテングサ漁場などに限られ、貝類やイセエビの多くは被害を免れた模様である。しかし、角張った岩によるエビ網の破損など今後の操業に支障を来すことも予想される。
 土砂の堆積が主体の場所でもイセエビやサザエの成貝などは被害が少なかったようであるが、岩や転石の下に生息するトコブシのおおくは埋没したものと考えられる。特にトコブシの主漁場であるアジア磯では死殻も散見され、その被害は甚大であろう。サザエについては成貝は確認されたが、小型貝ほど浅いところに生息し、稚貝は転石の下や岩の隙間などを住み場としていることから、来年以降の資源状態が懸念される。
 また、全ての調査地点で広範囲にわたって岩の表面や藻類の基部に浮泥の堆積が見られた。現状では藻類の多くは正常に繁茂しいるが、浮泥の堆積が長引けば藻類の胞子の着生や既に産卵期に入っているサザエの幼生の着底など再生産機構に悪影響を及ぼす可能性もある。

調査地点

写真1.調査地点

写真2.ミコシタの崩落

写真3.水深 3m付近の落石(ミコシタ)

写真4.岩に積もった浮泥(ミコシタ)

写真5.岩の隙間にイセエビ(ミコシタ)

写真6-1.モドヒガシの崩落(平成12年7月17日撮影)

写真6-2.砂浜の形成と海面の濁り

写真6-3.調査地点

写真7.大岩の間に砂礫が堆積している(モドヒガシ)

写真8.岩礁表面に付着するサザエ成貝(モドヒガシ)

写真9.コワット調査地点

写真10.岩棚に堆積する落石、砂礫(コワット)

写真11.岩礁基部に堆積する落石(コワット)

写真12.海底の岩場が砂礫で埋まった(コワット)

写真13.崩落起源の砂礫(コワット)

写真14.岩礁の表面に浮泥(コワット)

写真15.イセエビ(コワット)

写真16-1.アジア磯、水ヶ下付近(平成12年7月17日撮影)

写真16-2.調査地点

写真16-3.崩落が拡大し、土砂の堆積量が増加しつつある。

写真17.大岩の間に堆積した砂礫(アジア磯)

写真18.岩礁頂部のトサカノリ(アジア磯)

写真19.海藻の基部には浮泥が積もっている(アジア磯)

写真20.イセエビ(アジア磯)

写真21.アジア磯で回収されたサザエ人工種苗放流貝(平均殻高37.5mm)


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