三宅島潜水調査1(降灰域の潜水調査)
                             東京都水産試験場大島分場
目的
 前回確認した被害地域の海底の様子を把握するため、潜水によって降灰の堆積状況のおよびテングサ、フクトコブシなどの生息状況を観察した。
方法
調査日時:平成12年8月11日 8:30〜11:30
調査地点:前回確認した降灰域および北側の降灰域境界付近(アラキ〜ジョウネ)をアラキから北上し、濁りの状況と地元理事の指示による漁場価値等の判断から、アラキ、シオタキバ、ミノワ、ジョウネの4地点を選択した。現場では海面の汚濁状況を観察しながら、漁場範囲となる水深(10m前後以浅)で比較的変色の少ない場所を選んで潜水した。また、前日(8月10日)、3回目の噴火、降灰があり、アラキ付近で泥流も発生も確認したが、降灰の範囲は1回目とほぼ同じであった。
調査方法:スクーバで潜水し、ビデオ、写真撮影を試み、降灰の堆積状況を確認し、可能な場所ではテングサおよびフクトコブシを採取した。
調査員:村井衛、工藤真弘、杉野隆(東京都水産試験場大島分場)
同行:三宅島漁協神着地区(武田理事、森下氏)、三宅支庁産業課水産係(山根主事)
結果
1.アラキ、水深10m
 トコブシ、テングサ、トサカノリ、イセエビの優良漁場で、今年はまだトコブシを解禁していない。前日、泥流が発生したが、調査時には海面の汚濁域は著しく縮小していた(写真1)。潜水は漁場範囲の中で比較的変色の少ない場所を選んで行った(写真2)。
 水深1m付近の水平視界は1m程度、水深2,3mより視界が急速に減退し、直ちに暗黒となり上下判別不能となった(写真3)。着底後、水深を知るためゲージにライトを当てたが、濁りで読み取れなかった(ゲージに記録された最大水深は10mであった。)。手探りで灰泥の堆積状況を確認したところ、泥はゲル状となっており上面の境界はやや不明瞭ではあるが、感触で海底の砂礫との判別はできた。泥の中に手を入れると手首くらいまで埋まった(堆積量15〜20cm程度)。堆積物の大部分はゲル状であるが、底部に顆粒状の感触があった。

写真1.アラキ付近の海面の汚濁

写真2.アラキ調査地点
汚濁の切れ目付近で潜水した。

写真3.アラキ水深10m、
視界なし、水中ライトの明かりがぼんやり程度。
2.ミノワ、水深6〜8m
 トコブシ、テングサ、トサカ、イセエビ漁場。前回調査時には湾内全体が汚濁していたが、今回は水中の濁りはほとんどなく海面から海底が観察できた。調査地点は転石地帯で灰は転石と転石の間には溜まっており、転石の表面にも薄く火山灰が堆積していた(写真4)。転石間の灰は数センチの厚さに堆積しており、ゲル状であったが(写真5)、アラキ、シオタキ場でみられた顆粒状の感触はなく、握るとすべて融解した。テングサはほとんど露出していたが、基部が灰で覆われており(写真6)、葉上にも灰が付着していた(写真10)。
 トコブシは降灰前の7月13日に解禁しており、手ごろな転石はほとんど反転していたが、採り残しの石を起こすと転石1個あたり2,3個体のトコブシの生息が確認できた(写真7,8)。転石の反転時には大量の灰が舞い上がったが、トコブシの活力は正常であった。また、転石の間にはトコブシの殻も見うけられた。採集した7個のトコブシのうち2個体が放流貝、1個体は当歳貝であり、全体的にやや痩せている印象であった(写真14〜16)。

写真4.ミノワ水深4〜8m。
岩の表面に火山灰が薄く積もっている。

写真5.ミノワ水深6〜8m。
岩と岩との間には数センチの暑さでゲル状の火山灰が堆積している。

写真6.ミノワ水深6〜8m。
テングサの基部も火山灰で覆われている。

写真7.ミノワ水深6〜8m。
転石を起こすと灰が舞い上がるが、裏面にはトコブシが付着しており、
活力も正常だった。

写真8.ミノワ水深6〜8m。
転石の裏面に付着しているトコブシ。

写真9.ミノワ水深6〜9m。
放流トコブシ、殻長5.8cm。
写真10 ミノワ採集テングサ(マクサ)
3.ジョウネ、水深3〜6m
 岩礁の間に大石、転石がみられるテングサ、トコブシ、トサカノリ漁場(写真11)。水中に濁りはなく海底にも降灰の影響は見られなかった(写真12)。トコブシは3個体採集したが、生息密度はミノワより低く、転石あたり1個体程度であった。テングサはオバクサが主体でヒラクサの群落も見られた。トサカノリも点在したがやや退色していた(写真13)。

写真11 ジョウネ水深3〜6m。
大岩の表面にテングサが着生。

写真12 ジョウネ水深3〜6m。
火山灰の堆積はない。

写真13 ジョウネ水深3〜6m。
トサカノリが点在する。

写真14 ミノワ採集トコブシ。
左下の2個が放流貝、右上が当歳貝。

写真15 ミノワ採集トコブシ。
左下の2個が放流貝、右上が当歳貝。
 
写真16 ジョウネ採集トコブシ
4 三池、シオタキ場付近(共有区)、水深8m
 人工種苗の放流予定地であるオオハシ付近を目途に海面を観察したが、オオハシ付近は濁りがひどく、比較的濁りの少ないシオタキ場付近で潜水した。
 水深4〜5mまでの水平視界は2〜3mあったが、着底前3m位で茶褐色の濁りが著しくなり、急激に視界が減衰して着底時はアラキと同様の暗黒状態となった。泥はゲル状で堆積量は5〜10cm程度、アラキと同様に顆粒物の感触があった。着底地点は岩場で岩の頂部は泥から出ているようであり、手探りでテングサ(マクサ)を採取できた。テングサは岩に活着しており、灰泥が付着していたが色彩の変化は認められなかった(写真16)。

写真17 シオタキ場付近採集テングサ(マクサ)
考察
 今回の調査で降灰、泥流の影響が見とめられたのはアラキ、シオタキ場、ミノワの3地点であるが、アラキ、シオタキ場とミノワとは被害の様相が異なっていた。
 ミノワのような泥流の影響が少ない場所では現時点ではトコブシ、テングサとも生息できる環境にあり、今後、あらたな降灰がなく、波浪や潮流によって滞留した灰が排除されれば早期に漁場としての回復が期待できると考えられる。
 しかし、アラキ、シオタキ場のような泥流の流入が著しい場所(アラキ〜アノウ崎付近)では海面の変色程度から予測された以上に海底が汚濁しており、陸上の降灰堆積状況から見て、今後とも海底の観察自体に困難が予想される。今のところシオタキ場付近で採取した岩礁上のテングサは正常な色彩を保持していたが、濁りで光線が到達しない状態が長期化すると生息が危ぶまれ、胞子の放出など再生産機構にも支障をきたすことが考えられる。
 また、ミノワの海底で舞い上げた火山灰の沈降状況(比較的早く沈降する)や潜降過程で見られた濁り方の変化(途中から褐色の濁りが著しくなる)などから、泥流流入域の海底付近の汚濁は火山灰に加えて陸上起源の土砂が大きく影響しているものと推察される。

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