神津島地震災害漁場調査7
平成13年8月8日
東京都水産試験場大島分場
目的
 神津島北東部の「ハシルマ」漁場については、昨年の地震後まもない8月4日、9月21日、本年5月28〜29日に潜水調査を行って以来4回目の潜水調査である。また、この漁場には1998〜99年にサザエ大量放流試験を実施しており、今回、地震災害の漁場への影響及び放流貝の回収を試みた。
 東部の「三浦湾」、「長根浜」、「白島」は昨年の8月4日、本年1月17日に災害調査を 実施し、今回で3回目である。
 西部の「長浜」漁場は本年5月に潜水調査を行って以来2回目の潜水調査である。本漁場は従来からトコブシ・トサカノリの優良漁場として地元漁業者の利用頻度が高い漁場である。

方法
調査日時:平成13年7月18日(水)〜19日(木)
調査地点:調査は5地点で行った(図1参照)。
  7月18日 神津島南東部「三浦湾」   調査地点番号1
        神津島東部「長根浜」     調査地点番号2
        神津島東部「白島」      調査地点番号3
  7月19日 神津島北東部「ハシルマ」  調査地点番号4
        神津島西部「長浜」      調査地点番号5
1)災害影響調査はスキューバ潜水により、水中デジタルカメラ及び水中デジタルビデオによって撮影を行った。
2)調査地点のうち、トサカノリ・テングサが確認できた所ではサンプル採集を実施し、10株の草長及び重量を測定、撮影した。また、他の海藻類の繁茂状況についても調査した。
3)「ハシルマ」においては、99年11月に大量放流試験で放流したサザエ人工種苗の追 跡調査を併せて行った。放流種苗は殻高55〜75mm前後に成長していると予想され、そのサイズを中心に採集を行った。
結果及び考察
<三浦湾>調査地点番号1:神津島南東部
平均水深4.3m 最大水深5.7m 水温27.0℃
海底状況
 水深5m以浅では、依然として岩の表面上に砂礫や浮泥が堆積している岩が多く見られた(写真番号1)。そのような場所に生えている海藻群落は単調で特定の数種(コナウミウチワ、アツバモク、ヘラヤハズ、シワヤハズなど)が優占していた(写真番号2)。大きな岩の間にある低い岩面にはコナウミウチワが優占していた。
海藻類
1)トサカノリ:岩の頂部に散見される程度であったが、一株あたりの繁茂状況は良好であった(写真番号3)。
2)テングサ:岩と岩の隙間部分に多く見られた(写真番号4)が、量は少なかった。
3)その他の海藻:ヘラヤハズ・シワヤハズ・アツバモク・コナウミウチワが優占している(写真番号5)。
写真1 写真2
写真3 写真4
写真5
<長根浜>調査地点番号2:神津島東部
平均水深3.3m 最大水深5.5m 水温25.9℃
海底状況
 海底はヤハズグサが優占しており、所々石灰藻やキントキが見られた(写真番号6、7)。海中は濁りがあり、水深5mに比べ、水深3m以浅は石灰藻と雑草で覆われている岩が一層多く見られ(写真番号8)、転石の間は白い砂礫で埋没し砂地になっているところが多かった(写真番号9)。5月の調査時より更に陸上からの土砂流入があったと推測される。水深6m以深では岩が少なくなり、砂地が広がっていた。
海藻類
1)トサカノリ:散見される程度で株は少なかった。
2)テングサ:短いものが多く、草の表面に石灰藻が付着しているものが多かった。    3)その他の海藻:ヤハズグサが優占してみられた(写真番号10)。
その他
イセエビの小型個体から大型個体が多数見られた。タカベ・マアジ(何れも全長10cm程度)の群泳が見られた。
写真6 写真7
写真8 写真9
写真10
<白島>調査地点番号3:神津島東部
平均水深5.8m 最大水深8.4m 水温24.9℃
海底状況
 海面は波打ち際から沖に向かって白濁しており、潜降地点(水深約5m)では透明度は50cm程度であった。岸に向かって水深約3mまで調査したが、3m以浅は周囲が全く見えない状況になったため、沖側へ引き返した。岩上面には砂礫が堆積しているため、海藻類がかろうじて生えている程度であった。
 水深8m以深になって始めて透明度が1〜1.5m程度になった。岩はほとんど無く、一面に砂地が広がっていた。たまに岩が見られたが、頂部が出ているもので、ヤハズグサが優占していた(写真番号11、12)。
 「白島」は本年1月にも調査を行った場所であるが、前回より更に土砂が流入したと推測される(写真番号13、14、15:1月時)。
海藻類:海藻類はヤハズグサが優占しており、トサカノリ・テングサは全く見られなかった。
写真11 写真12
写真13 写真14
写真15
表1.調査地点別のトサカノリ10株平均葉長及び10株重量

表2.今回の調査で採集したトサカノリとテングサ10株平均葉長及び10株重量
<ハシルマ>調査地点番号4:神津島北東部
平均水深8.1m 最大水深10.1m 水温20.1℃
海底状況
 サザエ種苗放流時に記録したGPSデータから調査地点を決め、調査を実施した。依然として水深約6m以浅は一面細かい砂で覆われており(写真番号16)、大岩の頂部が頭を出しているような状況であった。岩の表面には圧倒的にヤハズグサ(写真番号17)が優占して付着していた。岩の表面は波浪による漂砂の移動でヤスリで削られたようになっている為に、海藻類は非常に少なかった。
 また、水深約6m以深では大岩が点在し、転石の間には砂地が広がっていた。岩の表面にはトサカノリを確認できた。 また、岩の表面や壁(側)面には依然として浮泥(シルト)状の細かい泥(写真番号18)が堆積しており、既に胞子放出が始まっているトサカノリ・テングサ等の有用海藻類の胞子着生の障害になると推測された。
 また陸上には、未だ崩落による大量の土砂が堆積しており、今後も海中への流入が続くことが予想される。
 サザエは多数確認できた。3歳以上と推測される個体が多数見られた(写真番号19、図2)。また、今回もトコブシ2個体の生息が確認できたが、何れも小型(殻長3〜4cm程度)であった。他にギンタカハマガイも確認できた。
 回収したサザエ144個体について殻頂部を研磨し調査した結果、放流貝はなかった。
海藻類
1)トサカノリ:所々に見られた。株は比較的大きいものが多かった。
2)テングサ:見られなかった。
3)その他の海藻:ヤハズグサが優占してみられた。
その他:所々でイセエビを確認できた。
写真16 写真17
写真18 写真19

図2.サザエ天然貝年級群組成(ハシルマ)
<長浜>調査地点番号5:神津島北西部
平均水深4.2m 最大水深5.8m 水温22.6℃
海底状況
 前回5月に調査した時と比べ、トサカノリは少なく散見される程度(写真番号20)であったが、株は大きくなり、草長は伸びていた(写真番号21)。
 5月の調査時、海底に生えていた雑多な海藻類は減少しており(写真番号22)、大規模な石灰藻群落(写真番号23)が広域で見られた。
海藻類:
1) トサカノリ:直径3〜5m程度の大岩頂部及び側面に多く見られた(写真番号24)。
2) テングサ:確認できなかった。
3) その他の海藻:石灰藻や雑多な海藻類が多く見られた。
その他:数カ所で適当な転石を反転したところ、トコブシ多数を確認できた(写真番号25)。タカベ(全長10cm前後)の群泳が見られた。
写真20 写真21
写真22 写真23
写真24 写真25
 今回調査した何れの場所でも、未だに地震災害による影響が続いていた。特に「白島」と「ハシルマ」では依然として岩に上に土砂の堆積が認められた。特に今回、「白島」の3m以浅では透明度が50cm以下と非常に悪かった。また海底は一帯が砂地になっており、岩の多くは頂部を残して埋没し、陸上からの土砂流入が継続していると推測された。
 「ハシルマ」のトサカノリは5月の調査時に比べ草長及び重量の成長が著しかった(表1、2参照)。しかし、依然として陸上から流入した土砂が岩に付着しており、今年の再生産(海藻の胞子着生)に影響を与えるものと推測された。
 「長浜」のトサカノリでは草長の成長はさほど見られなかったが、重量の増加が著しく、特に多岐の分枝による繁茂状態が良くなっていた(写真番号26、27)。
 「三浦湾」ではトサカノリ・テングサともに散見できる程度であった。
 「長根浜」ではヤハズグサ及び石灰藻が優占しており、トサカノリやテングサは更に少なかった。テングサは草長の短いものが多かった。
 地震災害による影響については、今後も調査を継続していく予定である。
写真26 写真27
取りまとめ:杉野 隆(取りまとめ)
       滝尾 健二
       駒沢 一朗
       山田 雅行(調査船「かもめ」船長)


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